学習指導要領とNIE

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現行の学習指導要領では、小中高全ての校種の総則に初めて、情報活用能力の育成のため新聞などの活用を図ることが明記されました。各教科の内容にも、引き続き「新聞」が数多く登場しています。これは新学習指導要領のもとでも、新聞が児童・生徒の学びに大いに資することの証左と言えるでしょう。
それでは、新学習指導要領が目指す学びに新聞はどのような役割を果たし得るのでしょうか。福山大学の小原友行教授に、指導要領改訂のポイントと併せて解説いただきました。
また、指導要領・解説書から新聞関連の記述(報道、記事、ニュース、論説、広告など)を抽出した資料、教科の内容を教える上で新聞が活用可能なポイントを抜き出した資料を作成しました。それぞれ実践の根拠となる資料ですので、ご活用ください。

新学習指導要領 改訂のポイントとNIE

福山大学人間文化学部教授 小原友行

1 新学習指導要領改訂のポイントは何か

2020年度小学校、21年度中学校、22年度高等学校(ただし学年進行)と、新学習指導要領が実施される。今回の教育課程の改訂のポイントは何か。ここでは、大きく次の3点を指摘しておきたい

第1のポイントは、「何ができるようになるか」を明確にしていることである。具体的には、目標である資質・能力の要素として、次の三つの観点が示されている。

  • A「知識・技能」…「何を理解しているか、何ができるか」
  • B「思考力・判断力・表現力等」…「理解していること・できることをどう使うか」
  • C「学びに向かう力・人間性等」…「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」

ここでは、便宜的に、「知識・技能」を「A型学力」、「思考力・判断力・表現力等」を「B型学力」、「学びに向かう力、人間性等」を「C型学力」と呼ぶことにする。その理由は、「A型学力」と「B型学力」は、それぞれが全国学力・学習状況調査のA問題とB問題で測定される学力(19年度からA問題とB問題を統合して出題)となっているからである。
なお、C問題は現状では作成されていない。Aは「学んだ力」、Bは「学ぶ力」と考えると、Cの「学びに向かう力・人間性等」は「学ぼうとする力」であり、学校教育法の第30条第2項にある「主体的に学習に取り組む態度」に相当する。今回の改訂で特に注目されるのは、3番目の「C型学力」である。それは、未来を創るために必要なエネルギーを生み出す学力と考えることができよう。

第2のポイントは、「何を学ぶか」を明確にした内容の見直しと、それに伴う新しい学習内容の開発を求めていることである。具体的には、新学習指導要領で学ぶ児童・生徒が社会人となり、一人前の大人として社会を支えるようになる近未来、すなわち、2030年前後の社会の変化に対応する学習内容の開発が求められている。例えば、「グローバル化・多文化化への対応」「持続可能な社会の実現」「産業や社会構造の変化に伴う新たな制度や価値の創造」「共助・自助の視点からの防災・安全対策」「若者の投票率低下と18歳からの有権者育成」「里山・里海再生などの地方創生」「人口減少社会を支える新たな価値の創造」などは、児童・生徒が成人となり、また主権者として活躍する時代の、大きな社会的課題になると考えることができる。

第3のポイントは、「どのように学ぶか」を意識した学習方法が提示されていることである。具体的には、「課題発見」「課題追究」「課題解決」という学習過程が教科を越えて示唆されており、そのための方法として、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング)を取り入れることが求められている。

2 全面実施に向けて、なぜ今、NIEなのか

では、このような新学習指導要領改訂のポイントに、NIEはどのような貢献をすることができるのであろうか。換言すれば、なぜ今、NIEが求められているのであろうか。

第1の改訂のポイントである資質・能力の育成との関連では、次のように整理することができよう。「B型学力」である「思考力・判断力・表現力等」の育成にとって、新聞読解や新聞づくりの活動は、大変効果的であることである。なぜなら、新聞記者によって深く情報読解された記事(そのような記事を豊富に掲載する使命が新聞界にはあるが)を教材として取り上げることによって、「なぜ、どうして」というニュースの背景を深く読み解くことができるからである。また、「どうしたらよいか」についても、意見や考えを持たせることも可能である。一方、児童・生徒が行う新聞づくりの活動は、それ自体が取材という情報収集に基づいた「思考・判断・表現」の活動そのものであるので、「B型学力」の育成には有効である。

また、「C型学力」である「学びに向かう力、人間性等」の育成にとっても、新聞教材はよりよい社会の形成に向かおうとする意欲を高める点で、絶好であろう。なぜなら、新聞に取り上げられている急激な社会の変化や、それを生み出している人間の問題解決の知恵を学ぶことを通して、社会に興味を持ち、その社会を作り上げられている人間に関心を持ち、それをよりよいものにしていこうとする課題意識や学習意欲を高めることが可能になると考えられるからである。

次に、第2の改訂のポイントである「何を学ぶか」という点では、新聞は新しい学びの材料を常に提供してくれていると考えることができる。新しい学習内容として注目されている「グローバル化」「持続可能性」「防災・減災」「主権者形成」「地域創生」などの近未来の課題は、ニュースとして新聞が毎日取材し、記事化しようとしているテーマでもある。その意味では、新聞が最も得意とする分野の内容と考えることもできる。

3番目に、第3の改訂のポイントである「どのように学ぶか」という点では、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング)が提唱されているが、新聞に取り上げられたニュースから問い(「なぜ、どうして」「どうしたらよいか、どの解決策がより望ましいか」)を発見し、その答えを学校や家庭・職場の仲間と対話しながら協働的に探究し、そのことを通して自分自身の意見や考えを構築していく学びは、NIEの学習そのものと考えることができるからである。

3 今後どのようなNIEを開発していくことが必要か

では、新学習指導要領の改訂の三つのポイントを踏まえれば、これからのNIEにとって、どのような学習を開発していくことが求められるのであろうか。ここでは、学習開発の今後の課題として、次の3点を提案しておきたい。
第1は、目標としての「C型学力」の育成をも実現できるような学びの開発である。そのためには、新聞を通して、記事の中に登場するよりよい社会を創造しようとしている人間に出会い、彼らを通して社会の希望に関心を持つことができるようなNIE学習の開発が必要である。

山崎繭加著「ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか」(ダイヤモンド社、2016年)の中に、「頭脳より知識より大切なもの」を学ぶために東日本大震災地域から学ぶという一節があるが、これからのNIEにおいても、基礎的な「知識・技能」や「思考力・判断力・表現力」よりももっと大切なもの、すなわち、より良い社会の実現に向けた夢・希望・志となる、新たな価値を創造していこうとする課題意識や学習意欲を醸成するような学習の開発が期待される。

第2は、近未来である2030~40年の社会の変化に対応する課題を重視したNIE学習の開発が求められることである。例えば、新聞を活用した「グローバル教育」「多文化教育」「ESD教育」「防災・減災教育」「主権者教育」「地方創生教育」などに関する多様な学習の開発である。

そして第3は、NIEだからこそできる、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブラーニング)の開発である。特に、「深い学び」を開発していくことが重要であろう。「主体的・対話的」ではあるが、深くない学習が多くみられる。そこで、これからは次のような「深い学び」となる活動を工夫していくことが必要となろう。

  • ◎「なぜ・どうして、もっと知りたい新聞で」(考える・熟考する学習)
  • ◎「どうしたらいいの、みんなで考えよう新聞で」(判断する・参加する活動)
  • ◎「意見や考えを、みんなに伝えよう新聞で」(表現する・発信する活動)

NIEが求める「主体的・対話的で深い学び」とは、児童・生徒自身が主体的に発見あるいは選択した地域・日本・世界の今日的課題や人間の問題解決の姿を取り上げ、他者である意見や考えの異なる仲間と対話しながら、それらの原因や解決策を深く考え、より良い未来社会の実現を目指して行われる学習」であると定義しておきたい。そのような「深い学び」を引き出すNIE学習の開発に大いに期待したい。

2018年11月22日

新学習指導要領・解説書にある新聞関連記述(報道、記事、ニュース、論説、広告など)

以下の資料は、新学習指導要領(小中学校は2017年3月告示、高校は18年3月告示)、解説書(小中学校は17年7月、高校は18年7月)から、「新聞」「報道」「論説」「記事」「ニュース」「広告」などの記述を抜き出したものです(「新聞」以外の語句については、新聞との関連性を勘案して抽出しています)。授業で新聞を活用する際のよりどころとなる資料です。ぜひご活用ください。

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